140 年以上、5 代にわたる家族経営をつづけてきた
Uyeda Jeweller の物語。
全 14 回の連載でご紹介させていただきます。
第 1 回は こちら から。
誰もが知る、フランスを代表する世界的ジュエリーブランドの社長が来店されたこともありました。
その際の義己の回顧録がウエダには残っています。
高名なジュエラーの来店と知って、義己は彼を店の奥へと案内しました。
どうやらその社長は日本で高品質な南洋真珠を買い付けるために、東京中を歩き回ったということでした。彼の求めで、店に保管されていた全ての南洋真珠がずらりとならべられました。
「……いったい、これはどういうことだ?」
フランスの宝石商は不思議がりました。
「今日も東京中の店をずっと回ってきたのだが、私の気に入るような上質の品はほとんどなかった。それなのになぜウエダにだけ、これだけの品が揃っているんだ?」
「それはウエダが良質な品を、どの店より評価するからです」
社長はすこし考え、それから義己の目を見ると、ぐいと身を乗り出しました。
「ここにあるものを、全部いただきたい」
店のすべての商品を買いたいというのだから、本来であれば信じられないような大商いです。莫大な利益を考えれば、ここで売り尽くしてしまう方が良いのは誰にとっても明らかでした。
しかし、義己は即座に首を振りました。
「恐縮ながら、ウエダには多くのお客様がいらっしゃいます。その方々はウエダの商品を楽しみにして、来店してくださっています」
「それはそうだろう」
「これらの品は、今日明日で簡単に揃えられるような品ではありませんし、揃えるまでにはまた長い時間が掛かります。せっかくご来店いただいたのにウエダに商品がなければ、皆さまをがっかりさせてしまいます」
「……」
「申し訳ありませんが、大切なお客様がたのために用意しているコレクションを、いまここで全てお売りすることはできません」
「言っていることはわかる。しかし私だってわざわざ日本まで来たのだ。なんとかならないか?」
「……それなら」
と、義己はコレクションを2つに分けました。
それから、この半分のうちであれば品質に納得のいくものがあれば選んでもらってかまわない、と伝えました。
グランサンク(フランス五大宝飾店)として名高い宝飾店の社長は大いに満足し、「その半分を、全て頂く」とその場で購入されました。
「本当にありがとう、素晴らしい店だ」
当時のウエダはまだまだ日本国内でも一部の方々にしか知られていない小さな宝飾店でした。しかし世界的名ブランドの社長による賛辞は、自分たちの品質と商売の姿勢が、間違っていなかったと思える言葉でした。
その後も世界各国の王室や、日本の高貴な方々からお買い物いただけているのも、当時から続く品質へのこだわりと誠実な姿勢を認めていただけているからかもしれません。
真珠全盛だった日本の宝飾市場のなかで、真珠からダイヤモンドなどの貴石へといち早く重心を移しはじめたのも二代目の時代です。吉五郎とはなの二人から引き継いだ宝飾のバトンを、富士朗と義己の二人が力を合わせて運んだのです。